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学校の検尿で引っかかったらどうする?
学校の尿検査で蛋白尿・潜血と指摘されたら? 原因と対処法を小児科専門医が解説
お子さんが学校の尿検査で引っかかった!「蛋白尿」や「潜血」の異常といわれた!子どもの尿検査で異常を指摘された場合の原因や経過、検査の流れや治療法、日常生活で気をつけるポイントを小児科専門医が解説します。
学校の検尿で子どもの尿検査に異常を指摘されたと連絡を受けると、不安になりますよね。尿検査で「蛋白尿」や「潜血尿(尿潜血陽性)」と言われても、慌てずに対処することが大切です。実は、子どもの尿検査異常の多くは一時的なもので深刻な病気ではない場合が多いです。しかし、中には早期対応が必要な腎臓の病気が潜んでいることも。この記事では、お子さんの尿検査で蛋白尿・潜血と言われたときの原因や経過、検査・治療の流れ、予防策について、科学的知見に基づいてわかりやすく説明します。
はじめに(学校検診と尿検査の背景)
学校では毎年「尿検査」が実施されます。この学校腎臓病検診(検尿)は、慢性腎臓病を早期発見する目的で全国的に行われており、日本では1974年から導入されました。腎臓の病気はかなり進行するまで自覚症状が出にくく、症状が出た時には腎機能が元に戻らなくなっていることも少なくありません。尿検査によるスクリーニングにより、症状のない早期のうちに異常を見つけて治療につなげることで、将来の腎不全を減らす効果も報告されています。
一方で、尿検査は非常に敏感な検査でもあります。実際、学校検尿で異常が指摘される子どもは決して多くはありませんが、小学生の0.15%程度で潜血(血尿)が、小学生の0.06%程度で蛋白尿がみられるとのデータもあります(中学生では潜血約0.2%、蛋白尿約0.2%と増加します)。*1) 多くの場合は精密検査の結果、特に心配のないケース(いわゆる「経過観察」でよいもの)がほとんどです。しかし、「元気だから問題がないことが多い」と放置していいわけではありません。学校から「尿検査で異常を指摘された」と通知を受けたら、必ず二次検査や医療機関での受診を行い、原因を確認するようにしましょう。
よくある症状と経過
学校の尿検査で蛋白尿や潜血尿を指摘されても、お子さん自身には目立った症状がないことがほとんどです。尿の色も普段と変わらず、痛みなどもない「無症候性」の異常として発見されます。実際、お子さんの血尿の多くは顕微鏡的血尿(肉眼では見えない血尿)であり、学校検尿や乳幼児健診で偶然見つかるケースが大半です。蛋白尿についても、尿が泡立つなどの症状は通常なく、検査で初めて分かる場合が多いです。
経過として多いパターンは、「一時的な異常」でその後正常に戻るケースです。例えば激しい運動をした直後や発熱・脱水のときには、一過性に尿に蛋白や血液が混じることがあります。この場合、数日後~数週間後に再検査を行うと正常化していることがあります。学校からもまず二次検査(再検尿)が案内され、多くのお子さんはそこで陰性(正常)に戻ります。このような一過性の検査異常は治療の必要はなく経過観察で問題がないことが多いです。
また、思春期の小学生高学年~中学生の痩せ型のお子さんでは起立性蛋白尿(体位性蛋白尿)がよくみられます。これは日中の活動時にだけ尿に蛋白が出現する良性の現象で、朝起きてすぐの尿には蛋白が出ないのが特徴です。腎臓の働きや将来の腎機能への影響はないと考えられており、基本的に治療の必要はありません。
しかし、中には長引く(持続する)異常もあります。再検査でも繰り返し蛋白尿が陽性になる、あるいは半年以上経っても血尿が続く場合などは注意が必要です。その場合もお子さんは元気で症状がないことが多いですが、腎臓の疾患が潜んでいる可能性があります。特に血尿の原因で重要なのは、糸球体腎炎という腎臓内部のフィルター部分の炎症です。代表的な慢性糸球体腎炎であるIgA腎症などは、風邪のたびに尿が紅茶のような色になるといったエピソードがみられることがありますが、顕微鏡的血尿のみの場合は気づかれず進行することもあります。このような病的な場合でも早期発見・治療介入によって腎機能の悪化を防ぐことができます。
検査と診断(再検査の内容・流れ)
学校で尿検査の異常(蛋白尿・潜血など)を指摘されたら、まずは指定された方法で二次検査(再検尿)を受けましょう。多くの自治体では、もう一度自宅で早朝第一尿を採取して提出する流れになっています。採尿の際は以下の点に注意してください。
- 前日は激しい運動を避け、検査当日の早朝起床時の尿を採る。(前夜、寝る前に排尿したらベッドへ直行してください。朝起きたらすぐトイレへ向かい、採尿します。この方法で、安静時尿が適切に採取できます。)。
- 前日の夜はビタミンC(アスコルビン酸)を多く含む食品やサプリの摂取を控える(偽陰性防止)。
- 採尿時はできれば中間尿を清潔な容器に採る。最初と最後は捨て、途中の尿を採取することで雑菌や不要な混入を減らします。
- 採った尿はフタをしっかり閉め、提出まで冷暗所に保管して速やかに検査に出す(時間経過で結果が変化するのを防ぐ)
上記を守って再検査を受けることで、より正確な判定が期待できます。再検査の結果、「陰性(異常なし)」となればひとまず大きな問題はないでしょう。ただし、念のため後日もう一度検査を行う場合もあります。
自治体により学校検尿のシステムは多少異なりますが、再検査でも「蛋白尿・潜血」が続く場合は、小児科あるいは小児腎臓専門医のいる医療機関を受診するように案内されると思います。指示に従い、医療機関を受診しましょう。
医療機関では、お子さんの状態に応じて、改めて尿検査(試験紙法と尿沈渣)、血液検査、エコー検査などが行なわれ、詳しく評価されます。尿試験紙法は潜血(ヘモグロビン)やタンパクの濃度に応じて反応する試験紙を用いたスクリーニングです。尿沈渣検査では赤血球の数や形態を調べます。タンパク尿を定量的に検査します(尿蛋白/クレアチニン比)。血液検査では、腎臓の働きを示す数値(クレアチニンや尿素窒素)、炎症の有無、免疫異常の有無などを調べます。腹部エコー検査(腎臓超音波)では形態的な異常(先天的な腎奇形や結石など)がないかを確認します。表1に検尿異常の主な精密検査と基準値の目安をまとめました。起立性蛋白尿の確認のため、夜間の尿と昼間の尿を分けて検査を行うこともあります。
さらに詳しい評価が必要と判断された場合、精密検査として以下のような検査が行われます:
腎生検:持続する血尿に加えて蛋白尿も出現している場合など、腎臓の組織検査が必要と考えられるケースでは腎生検を行うことがあります。腎生検では入院の上、背中から針を刺して腎臓の一部の組織を採取し、顕微鏡で詳しく調べます。これは糸球体腎炎の確定診断や重症度の評価に不可欠な検査です。血尿のみで蛋白尿が伴わないうちは腎生検までは行わないのが通常ですが、蛋白尿の持続が確認された場合には検討されます。
このほか、原因に応じて尿培養検査(尿路感染症が疑われる場合)、血圧測定(高血圧の確認)、眼底検査(腎炎の種類によっては網膜にも変化が出るため)、遺伝子検査などが行われることもあります。総合的に判断し、どのような状態なのか診断が下されます。
治療法(経過観察~治療の流れ)
検査の結果、特に大きな異常がない場合は、多くは定期的な経過観察となります。例えば血尿だけの場合(いわゆる無症候性血尿と言われる状態)では、基本的に治療はせずに定期的(初めの数ヶ月は毎月、その後は数ヶ月おきなど)に尿検査を行って様子を見るのが一般的です。
ただし、お医者さんから“血尿だけなので様子をみていきましょう。”と言われても、「このまま腎機能が少しずつ悪くなったりしないのか?」、「問題ないなら受診しなくてもいいのではないか?」、「結局、今後どうなっていく可能性が高いのだろう?」と、色々と気になると思います。千葉市で行われた14年間の学校検尿の経過観察では、無症候性血尿の約85%の症例で尿所見が正常化し、12%の症例で血尿が持続、3%の症例で腎炎(主にIgA腎症)に移行したという報告があります。(*2) このように多くは問題のない経過をたどるため、過度な心配は不要です。また、血尿だけが続いている場合、腎臓の働きが悪化していくことは通常ないとされています。(*3) しかし、定期的に尿検査をしていると、血尿が悪化したり、蛋白尿が新たに出てきたり、腎炎としての症状が徐々に表れてくるような場合もあります。適切にフォローしていくことが大切です。
病気が見つかった場合は、その病気に応じた専門的治療を開始します。見つかる可能性のある疾患については以下の通りです:
- 慢性糸球体腎炎(IgA腎症など):尿検査で血尿・蛋白尿が持続し、腎生検で確定診断された場合、進行抑制のための治療を行います。食事療法(減塩やタンパク質制限)や薬物療法(尿蛋白を減らすACE阻害薬・ARBといった降圧薬、ステロイドや免疫抑制剤の投与など)が検討されます。IgA腎症では扁桃摘出とステロイドパルス療法を併用する治療法も行われています。
- ネフローゼ症候群:尿蛋白が大量に出て体にむくみが現れる病気です。小児では微小変化型ネフローゼが多く、腎生検の前に副腎皮質ステロイドによる治療を開始して、治療の反応性をみる場合もあります。ステロイドに反応すれば尿蛋白は陰性化し、むくみも取れます。再発することもあるので長期の経過観察が必要です。
- 急性糸球体腎炎:溶連菌感染後急性腎炎など、急に血尿やむくみ、高血圧が出現するタイプです。入院の上で安静確保と食事療法(減塩)、必要に応じ降圧薬や利尿薬の投与などを行います。多くは数週間~数ヶ月で尿所見が改善し治癒します。
- その他:遺伝性腎炎(Alport症候群)、尿路感染症、尿路結石、先天性腎尿路異常(水腎症、嚢胞性腎疾患、腎低形成腎・腎異形成)、悪性腫瘍などさまざまな病気が見つかる場合があります。
予防と生活の工夫
腎炎やネフローゼ症候群やその他多くの病気の発症を日常生活の工夫で防げるわけではないのですが、生活習慣の改善は腎臓への負担を減らし、お子さんの将来の健康にもつながります。ご家族で協力して、無理のない範囲で取り組んでみましょう。
以下に生活上の工夫をまとめます:
- バランスの良い食事:塩分の摂りすぎは腎臓に負担をかけ、将来の高血圧の原因ともなります。育ち盛りのお子さんで制限する必要はありませんが、高塩分食やスナック菓子やジャンクフードは控えめにしましょう。偏った食事は避け、野菜や果物も含めたバランスの良い食事を意識してください。将来的な生活習慣病予防にもつながります。ただし腎臓疾患によっては、塩分や水分をたくさん必要とする病気の方もいれば、反対に水分や塩分、タンパクの摂取を制限しなければいけない状態の方もいます。血尿だけで他に異常のない方はよいですが、腎臓疾患を指摘されている方は主治医の指示に従ってください。
- 感染症の予防と早期治療:溶連菌感染後の腎炎など、感染症が引き金で腎臓に影響が出ることがあります。普段から手洗い・うがいの徹底や適切なワクチン接種で感染予防に努めましょう。のどの痛みや発熱があるときは早めに受診し、溶連菌感染症と診断された場合は抗生剤を適切に飲み切ることが大事です。尿路感染症を防ぐためにも、トイレを我慢しすぎない習慣や、特に女の子の場合はおしりの拭き取り方など清潔指導も心がけてください。
おわりに(保護者の皆様へ)
お子さんの**尿検査異常(蛋白尿・潜血)**は、最初は誰でも心配になるものです。しかし、慌てずに正しいステップを踏めば、多くの場合は大事に至らずに済みます。まずは学校の指示どおり再検査を受け、その結果に応じて小児科で必要な検査・治療を受けましょう。早期に対応すれば、たとえ腎臓の病気が見つかった場合でも適切にケアすることができます。
保護者の方は、お子さんの様子に普段から気を配りつつ、尿検査のフォローアップに協力してあげてください。「経過観察」と言われた場合も油断せず、決められた頻度で検査を継続することが大切です。不安な点や疑問があれば、遠慮なく担当医に相談しましょう。信頼できる医療チームと一緒にお子さんの健康を見守っていけば、きっと良い経過がたどれるはずです。
当院(ベスタこどもとアレルギーのクリニック)でも、学校検尿で異常を指摘されたお子さんの相談を受け付けています。血液検査、尿検査、超音波検査は当院の腎・泌尿器外来で実施可能です。専門的な検査や治療が必要な場合は適切な施設と連携してサポートいたします。
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参考文献
小児腎臓病学・第3版
*1 2014年学校検尿全国調査
*2 宇田川淳子, 倉山英昭, 松村千恵子, 秋草文四郎: 臨床所見から見た小児腎生検の適応について. 千葉医学雑誌, 72: 113-119, 1996. chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://opac.ll.chiba-u.jp/da/curator/900028381/KJ00004217301.pdf
*3 K M Chow et al. ” Asymptomatic isolated microscopic haematuria: long-term follow-up.” An International Journal of Medicine, Volume 97, Issue 11, November 2004, Pages 739–745. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15496530/
医療上の免責事項 本記事は、一般的な情報提供を目的としたものであり、個々の症状や状況に応じた医学的な診断・治療を代替するものではありません。お子さまの症状については、必ず医療機関を受診し、医師の診断と指示に従ってください。
監修
ベスタこどもとアレルギーのクリニック 院長 濵野 翔
日本専門医機構認定小児科専門医
日本アレルギー学会認定アレルギー専門医
表1:学校検尿異常の主な精密検査と基準値の目安