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小児の「慢性糸球体腎炎」について【ベスタの小児科医が解説】
お子さまの血尿や蛋白尿が続いていると、「慢性糸球体腎炎も否定はできないので、経過をみていきましょう。」と主治医の先生から言われた保護者の方は多いのではないでしょうか。
「慢性糸球体腎炎って何?」、「治らなそうな病気に聞こえるけど、将来大丈夫なの?」とご心配になるかもしれません。
慢性糸球体腎炎は、腎臓の中にある血液をろ過するフィルターの役割を持つ「糸球体」という部分に、長い期間にわたって炎症が続く病気の総称です。
この記事では、以下の4点をできるだけ分かりやすくご説明します。
- 慢性糸球体腎炎にはいくつかの種類があること
- どのような時に慢性糸球体腎炎を疑い診断していくのか
- 治療の中核であるステロイド薬や免疫抑制薬について
- 治療期間や予後について
もくじ
代表的な慢性糸球体腎炎
IgA腎症
小児の慢性糸球体腎炎の中で最も多いタイプです。免疫グロブリンの一種である「IgA」が糸球体に沈着することが原因です。普段は目立った症状がなくても、風邪をひいた後などに、コーラのような色の血尿が出ることが特徴です。
膜性腎症
糸球体のろ過の膜が厚くなってしまう病気です。たくさんの蛋白が尿に漏れ出てしまうため、体がむくむ「ネフローゼ症候群」という状態になりやすいのが特徴です。
ループス腎炎
「全身性エリテマトーデス(SLE)」という、自分自身の体を攻撃してしまう免疫の病気(膠原病)が原因で起こる腎炎です。腎臓だけでなく、皮膚や関節など全身に症状が出ることがあります。
膜性増殖性糸球体腎炎
糸球体の細胞が増えたり、ろ過の膜が厚くなったりする、少し複雑なタイプの腎炎です。最近では、原因によってさらに細かく分類されるようになっています。
C3腎症
免疫の働きを調節する「補体(ほたい)」という成分の異常によって起こる、比較的新しい概念の腎炎です。
巣状分節性糸球体硬化症
糸球体の一部が硬く変化してしまい、フィルターの機能を失ってしまう病気です。中には、治療が効きにくいタイプもあります。
同じ腎炎だが、混同されがちな疾患
急性腎盂腎炎、急性巣状細菌性腎炎、腎膿瘍
これらは、腎臓で生じた細菌感染症です。急に発熱し、抗菌薬治療により改善します。
自分の免疫が糸球体を攻撃する慢性糸球体腎炎とは別の病気です。
急性糸球体腎炎
障害のメカニズムは、慢性糸球体腎炎に似ており、自分の免疫が腎糸球体を誤って攻撃してしまって起こります。慢性糸球体腎炎に比べて経過が短く、数か月から半年以内で改善していきます。多くは溶連菌などの感染契機によるものです。→ https://www.besta-kids.jp/2025/08/28/2574/
慢性糸球体腎炎の診断には「腎生検」が必要
どんな腎炎なのか診断するためには「腎生検」が必要です。腎臓のダメージを評価し、治療方針を決める上でも非常に重要な検査です。
超音波(エコー)で腎臓の場所を確認しながら、専用の細い針を背中に刺して米粒ほどの大きさの組織を数本採取します。腎臓に血腫をつくってしまうなどの合併症があります。
小児の鎮静薬を使用して眠らせて行うのが一般的です。腎生検は4-7日程度入院して行います。
どんな時に慢性糸球体腎炎を疑って腎生検を行うのか?
持続する蛋白尿、ネフローゼ、浮腫
腎臓のフィルター(糸球体)が傷つくと、蛋白尿が常に漏れ続けます。尿タンパク値(mg/dL)を尿クレアチニン値(mg/dL)で割った数値(尿タンパク/クレアチニン比)で0.3~1.0以上が続く場合が腎生検を行う目安となります。
蛋白尿がより高度の場合、血液中の蛋白(アルブミン)の値が下がり、毛細血管内に水を引き付ける力(=コロイド浸透圧)が低下するため、間質(毛細血管と細胞のすき間)に水が移動し、浮腫(むくみ)が生じます。これはネフローゼという状態で腎生検適応となります。
持続する血尿、肉眼的血尿
血尿は、顕微鏡で一定の視野のなかに何個赤血球があったかで判断します。視野の中に5個以上が”血尿”と定義されており、およその分類ですが、1-4個は正常、5-20個は軽度、20‐50個は中等度、50個以上は高度血尿です。
通常、軽度の血尿が続くだけで腎生検は行いませんが、肉眼的血尿が続く場合や血尿に蛋白尿を伴う場合には腎生検を行います。
腎機能の低下、高血圧
腎糸球体が破壊されると、老廃物をろ過する能力が低下し、血液検査で腎機能が悪化(血クレアチニンの上昇)します。腎臓の機能が落ちると血圧が高くなることがあります。腎機能障害が進行する場合は早めに腎生検を行う必要性が高くなります。
治療の主役は「ステロイド」
これらの腎炎の多くは、免疫の働きの異常が関係しているため、治療の中心となるのは、その免疫の働きや炎症を抑える「ステロイド」というお薬です。ステロイドは、腎臓の炎症を鎮めるために非常に効果的なお薬ですが、同時にいくつかの副作用とも上手に付き合っていく必要があります。
ステロイド薬は長期間高用量で使用すると様々な副作用の可能性があります。
易感染性
免疫力が低下し、風邪やインフルエンザなどの感染症にかかりやすくなる、または重症化しやすくなる。 対策:手洗いやうがい、人混みを避ける、マスクを着用する、などの感染予防策
満月様顔貌(ムーンフェイス)、中心性肥満、食欲亢進
顔が丸くなったり、お腹周りに脂肪がつきやすくなったり、食欲が増したりします。 対策:カロリーの過剰摂取にならないよう、バランスの取れた食事を心がける。野菜やきのこ類など、低カロリーで満腹感が得られる食材を上手に取り入れる。
高血圧、高血糖(糖尿病)
対策:定期的な血圧測定や血糖値のチェック。食事療法(塩分や糖分の制限)。
骨粗鬆症
骨がもろくなり、骨折しやすくなる。 対策:カルシウムやビタミンDを多く含む食事を心がける。適度な運動(医師の許可のもと)で骨の健康を保つ。骨粗鬆症の予防薬が処方されたり、骨密度の検査を行うこともあります。
成長障害
対策:定期的な成長のモニタリングをおこなう。
精神症状
不眠、イライラ、気分の落ち込みなど 対策:十分な休息をとり、ストレスを溜めないような環境づくりを心がけましょう
眼の合併症
眼圧上昇(緑内障)、白内障 対策:定期的な眼科検診が推奨されます。
皮膚線条
急激な体重増加や皮膚の伸展により、お腹や太ももなどに線状の跡が現れる。 対策:急激な体重増加を避けることが予防に繋がります。保湿ケアも有効な場合があります。
その他:多毛、にきび、消化性潰瘍、副腎不全
気になる症状があれば、早めに医師に相談しましょう。消化性潰瘍の予防のために胃薬が処方されることもあります。
ステロイド治療は慢性糸球体腎炎の治療に不可欠です。ご家庭でのケアと医療機関との連携で、副作用を最小限に抑えながら治療を進めていくことが重要です。
よく使われる免疫抑制薬
病気の種類や重症度によっては、ステロイドに加えて、他の免疫抑制薬を一緒に使うこともあります。本来の免疫力を下げる薬なので、いずれの薬剤も感染症に注意が必要です。
カルシニューリン阻害薬(シクロスポリン、タクロリムス)
免疫の司令塔の働きを抑えます。血液中の濃度を測りながら量を調整します。
有害事象:腎障害(長期投与による慢性腎毒性を含む)、肝障害、多毛、歯肉肥厚、高血糖、高脂血症、電解質異常(高カリウム血症、低マグネシウム血症)
ミコフェノール酸モフェチル
免疫細胞が増えるのを抑えます。ループス腎炎などでよく使われます。
有害事象:骨髄抑制(白血球減少、貧血、血小板減少など)、肝機能障害、高尿酸血症
アザチオプリン
古くから使われている免疫抑制薬で、免疫細胞が増えるのを抑えます。
有害事象:骨髄抑制、肝機能障害、消化器症状、脱毛。遺伝子検査(NUDT15遺伝子)を行うことでリスクを前もって予想することができます。
ミゾリビン
日本で開発されたお薬で、免疫細胞の働きを抑えます。比較的副作用が少ないとされ、軽〜中等症のIgA腎症で使われることがあります。有害事象:骨髄抑制(白血球減少、貧血、血小板減少など)、肝機能障害、高尿酸血症
シクロホスファミド
強力な免疫抑制薬です。病気の勢いがとても強い場合に、点滴で集中的に使うことがあります。有害事象:骨髄抑制、出血性膀胱炎、消化器症状(吐き気、嘔吐など)、脱毛、性腺機能抑制(不妊のリスク)、二次性悪性腫瘍(白血病、膀胱がんなど)、心筋障害(高用量の場合)
リツキシマブ
特定の免疫細胞(Bリンパ球)だけを狙い撃ちする新しいタイプの点滴薬です。他の治療で効果が不十分な、難治性の腎炎に使われます。
有害事象:Infusion reaction(投与中または投与後24時間以内に起こる発熱、悪寒、頭痛、発疹など)、感染症(B型肝炎ウイルスの再活性化を含む)、進行性多巣性白質脳症(PML:まれだが重篤な脳の感染症)、血球減少。
治療期間と予後について
慢性糸球体腎炎の治療は、数週間や数ヶ月で終わるものではなく、年単位の長い付き合いになることがほとんどです。定期的な通院と検査を続けながら、お薬の量を少しずつ調整していきます。
病気の種類や、お薬への反応の仕方は一人ひとり違うため、「必ずこうなる」という決まった経過はありません。しかし、現在の治療法は進歩しており、適切な治療を根気よく続けることで、腎臓の機能の低下を抑え、将来にわたって腎臓を長持ちさせることが可能になってきています。適切な治療を受けることで、多くのお子さんが病気と上手に付き合いながら、元気に学校生活を送っています。
関連リンク
腎臓専門外来の案内:https://www.besta-kids.jp/special-outpatient/#link03
検尿異常:https://www.besta-kids.jp/2025/05/09/1745/
肉眼的血尿:https://www.besta-kids.jp/2025/05/02/1687/
ネフローゼ症候群:https://www.besta-kids.jp/2025/05/24/1852/
慢性糸球体腎炎:https://www.besta-kids.jp/2025/09/01/2649/
溶連菌感染後急性糸球体腎炎:https://www.besta-kids.jp/2025/08/28/2574/
尿路感染症:https://www.besta-kids.jp/2025/05/02/1666/
包茎:https://www.besta-kids.jp/2025/05/16/1823/
夜尿:https://www.besta-kids.jp/2025/05/16/1773/
尿路結石 https://www.besta-kids.jp/2025/09/04/2677/
水腎症 https://www.besta-kids.jp/2025/09/06/2689/
医療上の免責事項 本記事は、一般的な情報提供を目的としたものであり、個々の症状や状況に応じた医学的な診断・治療を代替するものではありません。お子さまの症状については、必ず医療機関を受診し、医師の診断と指示に従ってください。
監修
ベスタこどもとアレルギーのクリニック 院長 濵野 翔
日本専門医機構認定小児科専門医
日本アレルギー学会認定アレルギー専門医
この記事を監修した医師
小児科専門医 / 院長 濵野 翔
ベスタこどもとアレルギーのクリニック
当院の記事は、「こどもとご家族に寄り添い、より良い医療を考える」という理念のもと、 小児科・アレルギーの専門医が監修しています。日々の子育てで不安に感じることがあれば、 いつでもご相談ください。
経歴
- 2009年 杏林大学医学部付属病院 初期研修
- 2011~2017年 杏林大学医学部付属病院 小児科
- 2018年 福岡市立こども病院 アレルギー・呼吸器科、2019~2023年 杏林大学医学部付属病院 小児科
専門・所属学会
- 日本小児科学会認定 指導医・専門医
- 日本アレルギー学会認定 専門医
- 日本小児アレルギー学会 ほか関連学会所属
