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低身長治療は安全?治療を本格検討する判断基準、リスク・副作用・注意点を解説

「周りの子と比べて、うちの子は小さいかもしれない」と、お子さんの成長を見守るなかで不安を感じたことはありませんか。
低身長の気づきは単なる心配事ではなく、成長に注意が必要なサインかもしれません。低身長の背景には、体質だけでなく、治療が必要な病気が隠れていることもあります。
この記事では、低身長治療が必要かの判断方法や、メリット・デメリット、子どもの将来のために治療をやるべき理由をわかりやすく解説します。後悔しない選択をするために、正しい知識を知ることから始めてみましょう。
子どもの低身長とは

子どもの低身長とは、同じ年齢・性別の平均より明らかに身長が低い状態を指します。原因は体質によることもあれば、病気で成長が妨げられている場合もあります。まずは目安や判断方法、主な原因について理解しましょう。
目安
子どもの低身長の判断には「SDスコア(標準偏差スコア)」という指標が使われ、一般的に平均値の-2.0SD以下が低身長の目安です。(※1)日本の子どもの年齢別平均身長は、文部科学省の調査で報告されているためご確認ください。(※2)
約95%の子どもは-2.0SD〜+2.0SDの範囲におさまります。-2.0SD以下は、同年齢100人のうち下から2〜3番目に相当します。SDスコアについてはこちらのページも参考にしてください。
低身長かの判断には、年間の伸び方(成長率)への着目も重要です。伸びるペースが遅い場合は、病気が隠れている可能性があります。以下に年齢別の年間成長率の目安を示します。
- 0〜3歳:特に成長が著しく1年間でぐっと伸びる時期
- 4歳〜思春期前:年5〜6cmほどの伸びが目安
- 思春期:性ホルモンの影響で年8〜9cmほど伸びることが多い
子どもの身長が-2.0SDより高くても、2年連続で成長率が-1.5SD以下なら専門医への相談を検討しましょう。日本小児保健学会によると、-1.5SD以下の成長率が2年以上続く状態は、成長障害として扱われます。
判断方法
子どもの低身長を判断するには、母子健康手帳の成長曲線を使う方法がわかりやすいでしょう。定期的に身長を記録することで、成長のペースを客観的に把握できます。成長曲線で確認するポイントは以下の3つです。
- 現在の身長が-2.0SDの線を下回っていないか
- 点をつなげた線が右肩上がりで伸びているか
- 標準成長曲線の帯から外れていないか
これらの項目に当てはまる場合は、早めに小児科や内分泌専門の医療機関に相談すると安心です。
参考までに、男子と女子の標準身長・体重曲線を以下に掲載していますので、成長の目安にしてください。(※3)

原因
低身長の原因は、大きく体質と病気に分けられます。体質には、遺伝的に両親の身長が低い家族性低身長や、思春期が平均より遅いタイプがあります。体質が原因であれば治療が不要なこともありますが、病気の場合は早期発見と治療が必要です。
以下の表に、低身長に関わる代表的な病気と特徴をまとめました。

原因をはっきりさせるには、やはり専門の先生にしっかり調べてもらうことが大切です。早めに受診して、安心できる治療につなげてあげましょう。
低身長の診断・検査方法

低身長の診断は、問診・身体測定から始まります。診断にあたり、出生時の状況や既往歴、家族の身長は重要な情報です。成長曲線を評価することで、体質なのか病気かを見極める手がかりとなります。
診断後は、血液・尿検査を行い、貧血や栄養状態、肝腎機能、甲状腺ホルモンの値を確認することが一般的です。さらに骨の成熟度(骨年齢)を評価するために、手のレントゲンを撮影し、将来の伸びしろを見極めます。
成長ホルモンの分泌不足が疑われるときは、成長ホルモン分泌刺激試験を実施し、ホルモンの反応を詳しく調べることが必要です。診断と検査により、低身長の原因を明らかにして適切な治療方針を決めます。
低身長治療とは
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低身長治療とは、不足している成長ホルモンを補うことで、身長の伸びや体全体の健やかな発達をサポートする方法です。成長に必要なホルモンが不足しているなどの原因がある場合に行われます。
成長ホルモンは身長を伸ばすだけでなく、筋肉を増やして体力をつけたり、脂肪の代謝を促したりする働きがあります。心身の活力を高める役割もあり、健康な発達に欠かせないホルモンです。
低身長治療が必要と判断されるケースと、注射治療の進め方、補助的な役割を担うサプリメント治療を説明します。
治療が必要と判断されるケース
精密検査の結果で以下のような病気と診断された場合には、治療が検討されます。
- 成長ホルモン分泌不全性低身長症
- SGA性低身長症
- ターナー症候群(女児)
- 軟骨無形成症・軟骨低形成症
- プラダー・ウィリ症候群
これらの病気は、自然な改善が難しいことが多く、成長ホルモン治療によって、成長の過程をサポートすることが重要です。
成長ホルモンを家庭で注射する方法
低身長治療は、主に成長ホルモンを家庭で注射する方法(在宅自己注射)を中心に進めます。子どもの体に無理がないかを確認しながら、家庭と医療機関が二人三脚で治療を続けていくイメージです。

自己注射は、皮下脂肪が多い腕・おしり・お腹などに行います。毎回場所を変えることで、皮膚が硬くなったり、痛みが出たりするのを防げるでしょう。
現在主流となっている注射器は針も細く短いため、痛みを感じにくく、子どもが自己注射をできるようになるケースもあります。
サプリメント治療(栄養補充療法)
成長ホルモン注射以外の補助的な選択肢として、亜鉛やビタミンDなどの栄養補充療法を併用する場合があります。ただし、これらのサプリメントは「身長を伸ばす目的」で積極的に推奨されるものではありません。
近年の研究では、明らかな栄養欠乏がある子どもに限って、わずかな身長増加を示す可能性があるとされています。
例えば亜鉛については、いくつかの研究で「不足している子ども」に限って、わずかに身長の伸びが改善したという報告があります。
ただし、その効果は大きなものではなく、食事内容や体質などによって結果が変わることも多いため、「亜鉛をとれば背が伸びる」といえるほどの確かな効果は確認されていません。(※4)
また、ビタミンDについても、欠乏時には骨代謝やくる病予防に有用ですが、欠乏がない場合に「身長を伸ばす目的」で投与しても有意な効果は確認されていません。(※5)
そのため、身長を伸ばすためにサプリメントを先行して使用することは積極的には推奨されません。まずは、鉄や亜鉛、ビタミンDなどが足りているかどうかを、血液検査などで確かめることが大切です。不足が見つかった場合は、医師の指導のもとで必要な分だけ補うようにしましょう。
低身長治療のメリット

低身長治療の主なメリットは、以下のとおりです。
- 骨や筋肉の成長を助け、体力をつける
- 身長差への悩みが軽くなり、自己肯定感が高まる
- 生活の不便を減らし、進学や職業の可能性を広げられる
低身長治療は、単に身長を伸ばすためだけの医療ではありません。体の発達を助け、心の安心感や自信を育むなど、子どもの人生に長く関わる医療です。子どもの健やかな成長と将来にわたるQOL(生活の質)を高めるためのサポートとなります。
低身長治療のリスク・副作用・注意点

低身長治療は、子どもの成長をサポートする需要のある治療ですが、開始にあたっては慎重に検討していく必要があります。医学的にもその有効性についてはまだ議論の余地があり、リスクや副作用、治療の長期化による経済面での負担など、懸念されている点も少なくありません。
① インスリン抵抗性・糖尿病リスク
成長ホルモンには血糖を上昇させる作用があり、長期的に使用するとインスリン抵抗性が増す可能性があります。一部の症例では耐糖能異常や2型糖尿病の発症が報告されています。特に家族に糖尿病の既往がある場合や肥満傾向のあるお子さんは、治療中に定期的な血糖・HbA1c検査が推奨されます。
② 甲状腺機能低下症の顕在化
成長ホルモン治療によって、潜在的な甲状腺機能低下症(特に中枢性)が顕在化することがあります。
GH治療により末梢でのT4→T3転換が促進されるため、一見して甲状腺ホルモンが「減っている」ように見える場合もあります。
実際に機能低下が起こると、成長効果が十分に得られなくなることがあります。
③ 成長痛・関節痛
成長ホルモンによる急速な成長で、成長痛・関節痛を訴えることがあります。
稀に大腿骨頭すべり症(SCFE)や脊柱側弯の進行が報告されています。
④伸び悩み
特に注意が必要なのは、投与量や期間によっては骨年齢の進行が早まり、最終身長が期待値に届くどころか、かえって低くなる、いわゆる伸び悩みの可能性もある点です。
成長ホルモン治療は「骨端線(成長板)」に作用して骨の縦方向の成長を促進しますが、同時に骨の成熟(骨年齢の進行)も促します。
GH治療を始めて一時的に成長速度(年間身長伸び率)が上がっても、骨年齢が急速に進むと、成長板が早く閉じてしまうことがあります。
結果的に、最終身長(成人身長)があまり高くならないという「伸び悩み」状態に至るケースも多々報告されています。
⑤経済面での負担
低身長治療は、数年間にわたり成長ホルモンを注射するケースが多く、年間100〜300万円前後の費用がかかることもあります。
治療期間が長くなるほど負担も大きく、総額で数百万円に達する場合もあります。
しかし、特定の病気と診断された場合には各種医療助成を受けられ、自己負担を軽減できるでしょう。主な助成制度は以下のとおりです。
- 高額療養費制度(※6)
- 小児慢性特定疾病医療費助成制度(※7)
- 自治体独自の子ども医療費助成
それぞれの助成制度を組み合わせることで、多くの場合、月々の負担は数千〜数万円程度に抑えられます。
利用できる制度や上限額は診断名や所得、自治体によって異なるため、不安があるときは医師や看護師、医療ソーシャルワーカーに相談しましょう。
低身長治療に関してよくある質問(FAQ)

多くの保護者の方が疑問に思う点として、以下のよくある4つの質問に回答していきます。
①治療は何歳から始めるのが理想?
②何歳まで治療を続ける必要がある?
③生活習慣で身長を伸ばせる?
④安全に続けるためにはどうすればいい?
①治療は何歳から始めるのが理想?
低身長治療は、骨が伸びる時期にしか効果がないため、骨端線(こったんせん)が閉じる前に始めることが重要です。開始が早ければ、治療期間が長くなり、最終的な身長の伸びも期待できます。
特に、成長ホルモン分泌不全性低身長症などが原因の場合は、小学校入学前後〜低学年のうちに始めるのが望ましいとされています。子どもの年齢とSDスコア・成長曲線をよく見比べ、低身長の疑いがあれば早めに医療機関へ相談しましょう。
②何歳まで治療を続ける必要がある?
低身長治療は、骨の成長が止まるまで続けることが基本です。日本小児内分泌学会では、1年あたりの成長率が1cm未満、または骨端線閉鎖を認める場合に、低成長治療の終了を推奨しています。
ただし、骨の成長には個人差があるため、客観的な指標を組み合わせて、治療の終了時期を慎重に判断することが大切です。
自己判断で治療を中断してしまうと、期待される効果が十分に得られない可能性があります。必ず主治医と相談しながら、最適な終了タイミングを決めていくことが重要です。
③生活習慣で身長を伸ばせる?
身長の伸びを支える土台として、食事・運動・睡眠などの生活習慣を整えることは欠かせません。適度な運動と良質な睡眠に加え、以下の食事摂取を心がけましょう。
- 朝・昼・晩の3食をしっかりと食べる
- 肉や魚、大豆などのたんぱく質を摂る
- 炭水化物、脂質、ビタミン、ミネラルをバランスよく摂取する
ただし、食事・運動・睡眠はあくまで本来の成長力を引き出すための要素です。病気が原因の低身長の場合は、生活習慣の改善だけでは解決できません。
④安全に続けるためにはどうすればいい?
成長ホルモン治療を安全に続けるには、定期的に通院して、お子さんの体の変化をこまめに見ていくことが大切です。成長のスピードやホルモンの値、体の代謝の様子を定期的に確認することで、副作用を早めに見つけたり、薬の量が多すぎないかをチェックできます。
「公益財団法人 成長科学協会」によれば、以下のような管理項目が推奨されています。(※8)

日々の生活の中でも、お子さんが頭痛や倦怠感、むくみなどで悩み出したら、自己判断せず早めに医師へ相談しましょう。
まとめ
低身長治療が必要かどうかを判断するには、感覚ではなく成長曲線などの客観的な指標が大切です。治療には様々なリスク・副作用が起こる可能性や経済的負担も伴います。
治療を開始するときは本記事で紹介したメリット、デメリットをきちんと把握したうえで、親御さんとお子さんで納得ゆくまで話し合ってから始められることを推奨します。
ベスタこどもとアレルギーのクリニックでは、お子さんの成長に関するご相談も受け付けています。身長や発達のことで気になることがあれば、まずはお気軽にご相談ください。
参考文献
- 日本小児内分泌学会:「低身長|日本小児内分泌学会」
- 文部科学省:「学校保健統計調査」
- 一般社団法人 日本小児内分泌学会.「日本人小児の体格の評価|日本小児内分泌学会」
- Staub E, Evers K, Askie LM.Enteral zinc supplementation for prevention of morbidity and mortality in preterm neonates.Cochrane Database Syst Rev,2021,3(3).
- Huey SL, Acharya N, Silver A, Sheni R, Yu EA, Peña-Rosas JP, Mehta S.Effects of oral vitamin D supplementation on linear growth and other health outcomes among children under five years of age.Cochrane Database Syst Rev,2020,12(12).
- 厚生労働省:「高額療養費制度を利用される皆さまへ |厚生労働省」
- 小児慢性特定疾病情報センター:「医療費助成の概要 – 小児慢性特定疾病情報センター
- 公益財団法人 成長科学協会.「成長ホルモンの適正使用に関する見解」
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こどもの病気コラムの一覧です。
監修
ベスタこどもとアレルギーのクリニック 院長 濵野 翔
日本専門医機構認定小児科専門医
日本アレルギー学会認定アレルギー専門医
医療上の免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としており、個々の赤ちゃんの状態や健康に関する問題については、必ず医師の診察を受けてください。この記事の情報だけで判断せず、ご心配な点はかかりつけ医にご相談ください。

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