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スギ花粉症に対する舌下免疫療法について
💡スギ花粉症に対する舌下免疫療法:保護者が知っておきたいポイント💡
治療の適応(どんな場合に受けられる?)
- 確実なアレルギー診断: スギ花粉症と診断され、スギ花粉に対するIgE抗体陽性(血液検査や皮膚テストで確認)であることが前提です*1。
- 年齢制限: 原則として5歳以上が対象です(臨床試験の対象年齢が5~65歳)*1。小児の場合は舌下に薬を1分ほど保持できることが必要で、5歳未満の乳幼児では安全性が確立していません*1。
- 症状の程度: 軽症でも希望があれば可能ですが、特におすすめなのは薬物療法(抗ヒスタミン薬、点鼻ステロイドなど)では十分に症状がコントロールできない中等症以上の患者さんです*1。薬の副作用(眠気など)に悩んでいる場合や、将来的に薬を減らしたいまたは根本的に治したいと考える場合にも適しています*1。
- その他の条件: 治療の意義や方法を本人(小児の場合は保護者も)が理解し、毎日きちんと継続できることが重要です。重度の気管支喘息でコントロール不良の方、妊娠中(開始時)の方、口腔内に傷や炎症がある方などは治療開始を見合わせる場合がありますので詳しくは主治医の先生にご相談ください。
治療開始前に必要な検査・準備
- アレルゲンの確認: 上記のとおり血液検査(特異的IgE抗体検査)や皮膚プリックテストで、スギ花粉に対するアレルギーであることを確認します。必要に応じてヒノキや他のアレルゲンも検査し、症状との関連を見極めます(スギ花粉症患者の多くはヒノキ花粉症も合併するため)*3。
- 重症度の評価: 医師が鼻症状の程度や日常生活への影響を評価し、本治療の適応かどうか判断します。必要なら鼻粘膜の所見や鼻汁中の好酸球検査などでアレルギー性鼻炎の状態を把握します*1。
- その他のチェック: 治療に支障となる疾患がないか確認します。例えば重い喘息がある場合はまず喘息コントロールが優先です。また治療開始前に虫歯の治療や口内炎のケアをして、口腔内を健康な状態にしておくことも望ましいでしょう。
治療方法(薬剤・期間・服用方法)と服用時の注意
- 使用薬剤: スギ花粉エキスの舌下免疫療法剤を毎日1回服用します。日本では現在、「シダキュアⓇスギ花粉舌下錠」(鳥居薬品)という錠剤が主に使われており、従来の液剤(シダトレンⓇ)よりも小児も含め広く処方されています。治療は健康保険適用で行えます。
- 治療の手順: 初回は医療機関で少量の薬を舌下投与し、投与後30分間は院内で経過観察します。問題なければ翌日から自宅で服用開始となります。薬剤は徐々に増量して1週間程度で維持量(錠剤の場合は2000JAU→5000JAU)に達します。維持量に達した後は毎日1回、舌の下に錠剤を置き1分保持してから飲み込みます。
- 治療期間: 通常3~5年間の継続が推奨されます。効果判定は少なくとも1シーズン治療を続けた後に行います。効果が不十分でも1年で諦めず、可能なら3年は継続することが望ましいです。長期間続けるほど治療終了後の効果持続期間も長くなることが期待されています。
- 開始時期: スギ舌下免疫療法の開始は花粉飛散のない時期(6~12月)に行います。花粉シーズン直前や飛散中の開始は十分な効果が得られにくく、安全性の面でも推奨されません。
- 服用時の注意点:
- 錠剤は舌下に保持して溶かした後に飲み込みます。服用後5分間はうがいや飲食を避けてください。
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- 投与前後2時間程度は激しい運動や飲酒、入浴は控えます。
- 毎日できるだけ決まった時間に服用します。自宅で治療できますが、特に初期1ヶ月ほどは日中で家族のいる時間帯に服用し、万一の変化に気づけるようにします。
- 副作用としては口の中の違和感(かゆみ、ヒリヒリ感など)が出ることがあります。通常1時間程度で治まりますが、初回~1ヶ月間は症状が強く出ないか注意しましょう。口腔内の腫れや強いかゆみが長引く場合は主治医に相談してください。アナフィラキシーなど重篤な症状(全身の蕁麻疹、呼吸困難など)は極めてまれですが、万一生じた場合は速やかに救急受診が必要です。
- 妊娠中の方は原則新規に開始しません(治療中に妊娠が判明した場合は主治医と相談の上で継続可)。また、服用前後に歯科治療を受けた場合や口内に傷がある場合、治癒するまで数日休薬することがあります。休薬が1週間以内であれば再開時も通常量で構いませんが、1ヶ月以上空いた場合は再度少量から増量し直すよう医師が指示します。
治療成績と効果
- 有効率: 舌下免疫療法は約80%前後の患者に有効と報告されています。残念ながら全員に効くわけではなく、約1~2割の方は十分な効果が得られません*2。
- 症状の改善度: 多くの患者さんでは初めて迎える治療後の花粉飛散シーズンから症状緩和を実感します。ある調査では、1シーズン目に「よく効いた」「効いた」「やや効いた」と回答した患者が全体の80%以上にのぼりました*2。さらに2~3シーズン継続することで効果は高まり、3年目には90%以上の患者が何らかの症状改善を得られています。治療を続けるほど症状改善率が上がる傾向が示されており、特に3年目まで継続できた患者さんでは補助的な薬の使用量も減少する傾向が報告されています*2。
- ヒノキ花粉症への効果: スギ花粉症の舌下免疫療法を行うと、ヒノキ花粉に対してもある程度効果が及ぶ場合があります。スギとヒノキは主要アレルゲンの構造が似ており交差反応が強いため理論的には有効と期待されますが、実臨床では効果に個人差があります*3。
- 治療効果と遵守率: 舌下免疫療法は毎日コツコツ服用を続けることが成功の鍵です。継続が難しく中断してしまうと十分な効果が得られない可能性があります。1年目に90%以上の患者が高い服薬遵守率を保っていましたが、3年目まで計画通り継続できた患者は小児で約70%、成人で80%程度でした。遵守率が高い方が効果も得られやすいので頑張って続けましょう。
治療終了後の効果持続と再治療について
- 効果の持続期間: 舌下免疫療法で体質改善が得られると、治療終了後もその効果は数年単位で持続すると期待されます。例えば、ある研究では3年間の舌下免疫療法を終了した患者では平均2年程度効果が持続し、4~5年間治療を続けた場合は治療終了後に約8年間症状の軽減効果が持続したとの報告があります*4。
- 再燃時の対応: 年数が経って効果が薄れてくる(花粉症が再燃する)場合もあります。その際は再度舌下免疫療法を行うことで再び症状を抑えられることが確認されています*4。
監修者
ベスタこどもとアレルギーのクリニック 院長 濵野翔
日本専門医機構認定小児科専門医
日本アレルギー学会認定アレルギー専門医
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引用文献
*1 日本アレルギー学会 『スギ花粉症におけるアレルゲン免疫療法の手引き(改訂版)』2018年
https://www.jsaweb.jp/uploads/files/sugi_tebiki16_honmon.pdf
*2 佐藤輝幸ほか 「スギ花粉症に対する舌下免疫療法の小児と成人における比較調査」『日耳鼻』125巻5号 2022年 p.876-883
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jibiinkotokeibu/125/5/125_876/_pdf
*3 湯田厚司ほか 「スギ花粉症舌下免疫療法のヒノキ花粉飛散期の臨床効果」『日耳鼻』120巻6号 2017年 p.833-840
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jibiinkoka/120/6/120_833/_pdf
*4 Marogna M, et al. “Long-lasting effects of sublingual immunotherapy according to its duration: a 15-year prospective study.” J Allergy Clin Immunol. 2010;126(5):969-975. PMID: 20934206
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20934206/