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子供が頭を打った時のCT検査の必要性、自宅での観察ポイント
この記事を監修した医師

小児科専門医/院長
濵野 翔
お子さんが頭をぶつけて泣き叫ぶ、ぶつけた後もなんとなく元気がない、機嫌が悪い、吐いている、、。
そのような姿を見ると、大変心配になり、頭に大変なことが起こっていたらどうしよう、という気持ちになるのではないでしょうか。
大学病院や市中病院の小児救急外来では、わが子の頭部外傷に不安を抱え、CT検査をしてほしい、というご相談を数多くお受けします。
しかし、放射線被ばくの事を考えると、心配だからと言って、誰これ構わず安易にCT検査を行うべきではありません。
今回は、CT検査の必要性を見極めるためのいくつかの基準について、具体的に深く深く掘り下げてお話ししていこうと思います。
なお、この記事は頭部外傷時のCT検査適応について、非常に深く掘り下げた内容となっています。頭をぶつけたときの家庭での対応については、別記事の子どもが頭を打った!慌てないための観察ポイントと受診の目安をご覧ください。
もくじ
子供の頭部外傷とCT検査のジレンマ

放射線被曝と将来のリスク
頭を打った後は、目に見えない脳へのダメージがないか心配になります。 ただし、CT検査は放射線を使用する検査です。 成長期の子どもの脳は放射線の影響を受けやすく、将来の発がんリスクをわずかに上げる可能性が指摘されています。
「1000人に1人のがん死亡リスク」って、つまり、どのくらい危ないの?
「CTを撮らない」という積極的な選択
CTを撮らないという判断は、リスクを放置しているわけではありません。” 重症な頭部外傷を見逃さないことと、被曝による将来のリスクのバランスを慎重に計った上で、むやみに検査をしないこと”は、放射線リスクからお子さんを積極的に守るための、前向きな医療的選択です。
医師はどのように判断しているのか?
小児科医や救急医、脳神経外科医は決して勘や経験だけで判断しているわけではありません。 世界中のデータに基づいた基準を組み合わせて診察しています。 ここでは、医師がどのような基準でCTの必要性を見極めているのか、具体的に掘り下げてお話しします。
医師が参考にしている以下の3つの基準を紹介します。
- PECARN基準
- CATCH基準
- CHALICE基準
最も支持されるアメリカの基準「PECARN」

現在、世界中の小児科医や救急医が参考にしているのが「PECARN」というルールです。 2009年にアメリカで4万人以上の子どもを対象に研究された基準で、年齢(「2歳未満」と「2歳以上」)によって確認するポイントを分けています。
1. 高リスク(CT推奨)
2. 中リスク(経過観察またはCTを考慮)
- 2歳未満:前頭部以外の皮下血腫、5秒以上の意識消失、親から見て様子が違う
- 2歳以上:皮下血種、意識消失、嘔吐、激しい頭痛、親から見て様子が違う
これらに該当した場合は、複数の症状がないか、経過観察中に症状が悪化しないかなどを慎重に確認し、医師の裁量でCTを撮るかを判断します。
3. 低リスク(CTを推奨しない)



PECARN基準の精度
- 2歳未満:100.0%(CT不要と判定された1,175人中、重症脳損傷は0人)
- 2歳以上:99.95%(CT不要と判定された3,698人中、重症脳損傷は2人)
- 1人目のケース(小さな硬膜下血腫) ヘルメットを被らずに自転車に乗っていて事故に遭った子どもです。重度の肺損傷を含む多発外傷を負っていました。「中等度の頭痛」と「前頭部の大きな皮下血腫(たんこぶ)」があり、ルール上は『CT推奨せず』に該当しますが、医師の裁量でCTを撮ったところ、小さな前頭部硬膜下血腫が見つかりました。
- 2人目のケース(脳挫傷と線状骨折) ヘルメットを被らずにインラインスケートをしていて、10段以上の階段を滑り落ちてしまった子どもです。こちらも「中等度の頭痛」と「前頭部の大きな皮下血腫」がありました。ルール上は『CT推奨せず』に該当しますが、医師の判断でCTを撮影したところ、脳挫傷があり、経過観察のために2泊の入院となりました。
カナダの基準「CATCH」について

対象となる患者
7つの判定項目
- ① 受傷2時間後も意識が完全に戻らない
- ② 開放・陥没骨折の疑い
- ③ 悪化する頭痛
- ④ 診察時の不穏・易刺激性(機嫌の悪さ)
ミディアムリスク(CTで脳損傷が見つかるリスク)
- ⑤ 頭蓋底骨折のサイン
- ⑥ 頭皮の大きくてブヨブヨした血腫
- ⑦ 危険な事故(階段からの転落や交通事故など)
CATCH基準の精度
- 1人目:後頭骨骨折と少量の気脳症
- 2人目:軽度の脳浮腫
- 3人目:少量の硬膜外出血と小さな脳挫傷
イギリスのガイドライン「CHALICE」基準

14の判定項目
病歴:
- 5分を超える意識消失や健忘
- 傾眠傾向
- 3回以上の嘔吐
- 虐待の疑い
- てんかん既往のないけいれん
身体所見
- GCS14未満(1歳未満は15未満)
- 開放・陥没骨折の疑いや大泉門膨隆
- 頭蓋底骨折のサイン
- 神経学的な局所所見
- 1歳未満での5cm以上の皮下血腫・挫創
受傷機転
- 時速約64km(40マイル)以上での交通事故
- 3m以上の高所からの転落
- 速く動く物体との衝突。
CHALICE基準の精度
- 正しく「CTが必要」と判定できた(見つけられた): 277人
- 「CT不要」と判定してしまった(見逃された): 4人 → 感度 227/281= 98.6%
- 2人:診察時の「骨折」の見落とし 最初の診察時に、医師が「陥没骨折」があることに気づけず帰宅させてしまいましたが、再受診時に別の医師が診察すると「触ってわかるレベルの陥没」があったと記録されています。つまり、医師の身体診察における所見の見落としが原因でした。
- 1人:手術が必要になったケース(硬膜外血腫) 目撃者のいない状況で壁に転倒しました。初診時は14項目の危険サインが一つもなく帰宅しましたが、2時間後に嘔吐して再受診しました。一晩入院して経過観察し、翌朝のCTで硬膜外血腫が見つかったため、神経外科的な手術が必要となりました。
- 1人:治療不要だったケース(小さな骨折と血腫) ブランコから小川へ転落しました。短時間の記憶喪失と中等度の頭痛がありましたが帰宅しました。11日経っても頭痛が続くため再受診し、CTを撮ったところ線状骨折と小さな硬膜下・硬膜外血腫が見つかりました。ただし、これらは治療を必要としない軽傷でした。
CHALICE基準の特徴
3つの基準のまとめ

- 高い安全性のPECARN
- リスクを2段階にわけた詳細な症状評価が可能なCATCH
- 安全性を保ちつつCT被ばくリスクをおさえることができるCHALICE
いずれも非常に有用性の高い基準であり、これらの医学的知見と経験をもとに、医師は診察を行い、より適切な判断をしています。
万が一「見逃し」があったら? 過去のデータが教えてくれること
低リスクで経過観察と判断され、お家に帰った後の注意点

お家で気をつけるべき「レッドフラッグ」サイン
以下の3つのレッドフラッグと呼ばれるサインが見られた場合は、早めは再受診をしましょう。
- 嘔吐:受傷直後に1回吐いてもその後元気なら様子を見られることが多いですが、時間が経ってから複数回吐く、あるいは噴水のように激しく吐く場合は危険なサインです。
- 意識や機嫌、頭痛:ご家族の直感でいつもと全く違うと感じる不自然な不機嫌さ、何度起こしてもすぐに深く寝入ってしまう、激しく泣き止まない、強い頭痛が治まらない、などには注意が必要です。
- 動きの異常:手足がピクピクとけいれんする、歩ける年齢のお子さんがフラフラして歩けない、視線が合わないなどの明らかな変化は再診が必要です。
ご自宅での過ごし方
頭を打ってから24時間は、できればご自宅で静かに過ごすことをお勧めします。
公園での激しい運動や、長湯をして血行を良くしすぎることは控えてください。
夜間寝ている時も数時間に1回はそっと様子を見て、寝返りを打つか、少し触れた時に反応があるかを確認してあげてください。
迷ったらいつでもご相談ください

練馬区にある当院、ベスタこどもとアレルギーのクリニックでは、小児科専門医の視点からお子さんの状態を丁寧に診察いたします。 お伝えしたチェックポイントに当てはまらなくても、ご家族から見て何かがおかしいと感じた時は、迷わずご相談ください。 不安な時はお一人で抱え込まず、気軽にお声がけください。
医療上の免責事項
本記事は一般的な医学的情報の提供を目的としており、個別の診断や治療に代わるものではありません。お子さんの症状でご不安な場合は、自己判断せず、速やかに医療機関を受診してください。
この記事を監修した医師
小児科専門医 / 院長 濵野 翔
ベスタこどもとアレルギーのクリニック
当院の記事は、「こどもとご家族に寄り添い、より良い医療を考える」という理念のもと、 小児科・アレルギーの専門医が監修しています。日々の子育てで不安に感じることがあれば、 いつでもご相談ください。
経歴
- 2009年 杏林大学医学部付属病院 初期研修
- 2011~2017年 杏林大学医学部付属病院 小児科
- 2018年 福岡市立こども病院 アレルギー・呼吸器科、2019~2023年 杏林大学医学部付属病院 小児科
専門・所属学会
- 日本小児科学会認定 指導医・専門医
- 日本アレルギー学会認定 専門医
- 日本小児アレルギー学会 ほか関連学会所属
