トピックス
朝がしんどい。どう付き合っていく?起立性調節障害について【ベスタの小児科医が解説】
「朝、何度起こされても、起きられない…」
「最近、疲れやすい。立ちくらみや頭痛をよく訴えるようになった…」
「午後は元気なので、怠けているだけのように思われる…」
思春期によく見られるこれらの症状は、単なる「やる気の問題」や「夜更かしのせい」ではなく、**「起立性調節障害(OD)」**という、自律神経のバランスが乱れることで起こる症状かもしれません。
自律神経のスイッチの不具合で起こる症状なので、薬で簡単に治るものではありません。少しでも症状を和らげるためにはどうすればよいか、上手に付き合っていくための策をお伝えしたいと思います。
当院は、西武池袋線 中村橋駅北口から徒歩1分にあります。練馬区、中野区、杉並区、西東京市など西武線沿線にお住まいの皆さまにとって、365日いつでも頼れるかかりつけ医でありたいと願っています。
もくじ
はじめに:起立性調節障害(OD)とは?
起立性調節障害(Orthostatic Dysregulation: OD)とは、自律神経系である交感神経と副交感神経のバランスが崩れることで、立ち上がった時に脳への血流が低下するなど、さまざまな不調を引き起こす病気です。
特に、体が大きく成長する小学生高学年から中学生(10〜16歳頃)の思春期に多く見られます。小学生の約5%、中学生の約10%に生じるとも言われており、決して珍しい病気ではありません。
症状が午前中に強く、午後には回復することが多いため、周囲からは「怠けている」「気持ちの問題」と誤解されることもあります。しかし、これは本人の意志とは関係なく起こる、体の病気なのです。
起立性調節障害の主な原因は「自律神経の乱れ」とは?
自律神経とは、心臓の動き、呼吸、血圧、体温、消化などを自動でコントロールしてくれている、いわば**「体の司令塔」**です。 この司令塔は、正反対の働きをする2つの神経から成り立っています。
- 交感神経:体を活動的にする「アクセル」
- 副交感神経:体を休ませる「ブレーキ」
この2つの神経が、バランスを取りながら、体を最適な状態に保ってくれています。
交感神経(アクセル)の働き
交感神経は、主に日中の活動時間や、緊張・興奮・ストレスを感じた時に優位になります。車で言えば、エンジンをふかして前に進むための**「アクセル」**です。
- 心臓の鼓動を速くする
- 血圧を上げる
- 血管を収縮させて、脳や筋肉に血液を集中させる
- 瞳孔を開いて、多くの情報を取り入れようとする
朝、目が覚めてシャキッと起き上がり、元気に学校へ向かえるのは、この「アクセル」である交感神経がしっかりと踏み込まれ、体が「お仕事モード」「戦闘モード」に切り替わるからです。
副交感神経(ブレーキ)の働き
一方、副交感神経は、主に夜間の睡眠中や、食事中、リラックスしている時に優位になります。車で言えば、スピードを落として安全に停車するための**「ブレーキ」**です。
- 心臓の鼓動をゆっくりにする
- 血圧を下げる
- 胃腸の働きを活発にして、消化・吸収を助ける
- 心と体をリラックスさせ、傷ついた細胞を修復する
夜、ぐっすりと眠り、一日の疲れを癒やし、明日へのエネルギーを蓄えられるのは、この「ブレーキ」である副交感神経が優しく働き、体が「お休みモード」「メンテナンスモード」に切り替わるからです。
起立性調節障害では、この自律神経のスイッチがうまくいかず、様々な症状が現れてしまいます。
思春期に多いのは、急激な身体の成長に自律神経の発達が追いつかないためです。
よくある症状
- 朝、なかなか起きられない、起き上がれない
- 立ちくらみ、めまい、立っていると気分が悪くなる
- 入浴時や嫌なことを見聞きした際に気分が悪くなる
- 動悸、息切れ
- 食欲不振、腹痛、吐き気
- 頭痛
- 倦怠感、疲れやすい
- 夜、なかなか寝付けない
- 乗り物酔いをしやすい
- 午後からは元気になる
検査と診断
“これが陽性だと、自律神経失調症の診断です。”、といえるような診断マーカーはありません。
大事なことは他の病気を見逃さないことです。
貧血や甲状腺異常などの内科的な異常がないか調べるためには、血液検査を行います。
心臓のスクリーニング検査としては、心電図検査を行います。
起立性調節障害のタイプを判別する検査として、「新起立試験」という検査があります。10分間安静に横になった後、立ち上がって10分間、血圧や脈拍の変動を測定します。
*当院では実施しておりません。
生活習慣の改善
起立性調節障害の治療は、「非薬物療法(生活習慣の改善)」が基本となります。
規則正しい生活を!
生活リズムが整い、心身のバランスが取れていると症状が出にくくなります。早寝早起きを心がけ、朝の光を浴び、 1日3食を決まった時間に食べるようにしましょう。
水分と塩分を「意識して」多めに摂る
体内の血液量を増やすことで、脳への血流が保たれやすくなります。朝起きたらまずコップ1杯の白湯を飲みましょう。
毎食の食事に味噌汁やスープをプラスするのも効果的です。
朝はゆっくり起き上がる
急な体勢の変化は禁物です。脳に血液を送る準備運動をしながら、ゆっくり起き上がりましょう。
例) 目が覚めたら、布団の中で手足をグーパーしたり、足首を回したりして、血流を促します。5分ほどかけて、ゆっくりと上半身を起こします。さらに1〜2分休憩し、ゆっくりと立ち上がりましょう。
日中は「座る・立つ」時間を増やす
日中に体を横にする時間が長いと、自律神経のスイッチがますます入りにくくなると言われています。
運動をしましょう!
運動: 1日15〜30分のウォーキングが最も効果的です。水泳やサイクリングも負担が少なくおすすめです。
食事はゆっくりよく噛んで
一度にたくさん食べると、消化のために胃腸に血液が集中し、脳への血流が減って食後に症状が悪化すること(食後低血圧)があります。
1日3食の1回量を少し減らし、その分を午前10時と午後3時の補食(おにぎりやサンドイッチなど)で補う「1日4〜5食」のスタイルを試してみてください。
朝の光を浴びよう
起きたらまず太陽の光を浴びましょう。体内時計がリセットされます。
夜のスマホ・ゲームはNGです!!
就寝1〜2時間前には、脳を興奮させるブルーライトを避け、読書や静かな音楽、軽いストレッチなどリラックスできる時間を作り、睡眠の質を高めましょう。
身体を締め付ける「サポートアイテム」を活用する
立ちくらみが強いお子さんには、弾性ストッキングや着圧ソックスの着用を勧めることがあります。
症状と上手に付き合う~「完璧」を目指さない環境づくり~
朝から学校に行けず、「授業に出られない分、勉強が遅れてしまう…」、といった不安は、大きなストレスになると思います。でも焦らなくて大丈夫です。起立性調節障害は、気合や根性で乗り切る病気ではありません。自分の体の特性を理解し、工夫することで、課題に取り組んでいくことができます。
なんでも 「100点満点」を目指さない
まず大切なのは、「毎日元気に学校に行く」という100点満点を目指さないことです。今日の自分の体調を観察しながら、「今日は午後から行けそう。」、「今日は家で課題を少し進められた」というように、自分だけの目標を立ててみましょう。0点でなければ、すべて大事な一歩です。
自分の体調を壊さずにわずかでも前進することが出来たとしたら、それは自分をコントロールできているという視点でみれば100点満点です。
学校を味方につける
学校は意外と気力と体力を使います。事前に保護者の方から先生に、病気のことを説明してもらいましょう。「気分が悪くなったら保健室で休ませてほしい」「体育の授業は見学させてほしい」など、具体的なお願いをしておくことで、学校が安心できる場所に変わります。診断書を提出するのも有効です。
休み時間の過ごし方を工夫する
友達と沢山おしゃべりするのも楽しいですが、色々と疲れることもありますよね。疲れを感じたら無理せず、静かに座って本を読んだり、次の授業の準備をしたりして体力を温存しましょう。
体調が良い時間帯を「ゴールデンタイム」に
ODの症状は、午後から夕方にかけて和らぐことが多いです。その体調が良い時間帯を、自分だけの「ゴールデンタイム」と決め、集中して課題に取り組みましょう。
「15分集中法」を試してみる
長時間机に向かうのが辛い時は、「15分だけ集中して、5分休む」というサイクルを繰り返す「ポモドーロ・テクニック」がおすすめです。短い時間なら、集中力も続きやすくなります。
合併しやすい片頭痛と過敏性腸症候群
「起立性調節障害」に加え、「片頭痛」や「過敏性腸症候群(IBS)」といった他の病気を合併していることも少なくありません。これらも自律神経の乱れが深く関わっています。
頭痛がある場合
頭痛ダイアリーをつけてみると、頭痛の引き金となる原因がわかる場合があります。
原因となりうるものとして、
- 食事(チーズ、チョコレート、柑橘類、ナッツ類など)
- におい(香水、たばこなど)
- 光や音の刺激
- 天候の変化
- 睡眠リズムの変化
などがよく知られています。自分の症状がでる傾向がわかれば、対策も立てられます。
腹痛がある場合
食事はゆっくり、よく噛んで、規則正しく1日3食、決まった時間にとりましょう。体を温め、お腹を冷やさないようにしましょう。
高脂肪食(揚げ物、スナック菓子)、香辛料の多い食事、多量のカフェイン、炭酸飲料は、腸を刺激し症状を悪化させやすいと言われています。食生活を見直してみましょう。
「低FODMAP(フォドマップ)食」:
FODMAPとは、小腸で吸収されにくく、大腸で発酵してガスを発生させやすい糖類の総称です。低FODMAP食の摂取によりIBS症状が改善すると言われています。ただし、自己流で行うと栄養が偏る危険があり、主治医や栄養士との相談が大事です。
*当院では、管理栄養士による詳細な献立作成や、個別の栄養相談・指導は実施しておりません。「低FODMAP食」は、あくまでご家庭での食事療法のヒントとして掲載しております。FODMAP一覧表などを参考に「いつものメニューを少しアレンジしてみる」「偏りのない範囲で相性の悪い食材を控えてみる」といった、無理のない範囲での工夫を推奨しています。
薬物療法
薬はあくまで「非薬物療法(生活習慣の改善)」をサポートするものです。
「薬を飲めば治る」わけではありません。
薬で少し楽になっている間に、生活習慣を整え、体力をつけていきましょう。
よく使用する薬を紹介します。
ミドドリン塩酸塩(商品名:メトリジンなど)
最も一般的に使われるお薬です。末梢血管を収縮させることで、血圧低下を防ぎ、立ちくらみや倦怠感を改善します。飲み始めてから1〜2週間程度で「午前中が少し楽になった」「立ちくらみが減った」といった変化を感じられることが多いです。
鳥肌が立つ、頭皮がピリピりする、頭痛、腹痛などの副作用が起こることがありますが、多くは軽度で、体が慣れてくると共に治まります。
小児にはミドドリン塩酸塩として、通常1日4mgを2回に分けて経口投与します。
トフィソパム(商品名:グランダキシンなど)
自律神経の中枢に作用し、交感神経と副交感神経のバランスの乱れを調整します。頭痛、腹痛、倦怠感、不安感といった多彩な症状を和らげる効果が期待できます。
効果を実感するまでには少し時間がかかります。2〜4週間ほど続ける中で、徐々に「気分の浮き沈みが減った」「理由のない不安が和らいだ」といった変化を感じられることが多いです。
副作用は比較的少ないとされていますが、眠気、ふらつき、吐き気、食欲不振などが現れることがあります。成人の体格では、1回1錠、1日3回経口投与します。(年齢・症状により適宜増減)
「漢方薬」
症状や体質に応じてよく使用する漢方薬をいくつかご紹介します。
【疲れやすい、だるい】補中益気湯
とにかく元気がない、食が細い、声に力がない、少し動くとすぐに疲れてしまう、風邪をひきやすいといった症状体質の方に有用です。
【頭痛、むくみ、めまい】五苓散
天候(気圧の変化)によって頭痛が悪化する、むくみやすい、めまいや吐き気、下痢を伴うなどの症状に有効です。片頭痛だけでなく、二日酔いや乗り物酔いにもよく使われます。
【虚弱で疲れやすい、お腹がシクシク痛む】小建中湯
疲れやすい、顔色が優れない、食が細い、手足がほてる、頻繁に腹痛を訴える、といった方に使用します。
漢方薬は効果を実感できるまでに1ヶ月〜3ヶ月と、長い目で見る必要があります。焦らずじっくりと続けることが大切です。副作用は少ないとされていますが、体質に合わないと胃の不快感や皮膚の発疹などが起こることがあります。
医療上の免責事項 本記事は、一般的な情報提供を目的としたものであり、個々の症状や状況に応じた医学的な診断・治療を代替するものではありません。お子さまの症状については、必ず医療機関を受診し、医師の診断と指示に従ってください。
監修
ベスタこどもとアレルギーのクリニック 院長 濵野 翔
日本専門医機構認定小児科専門医
日本アレルギー学会認定アレルギー専門医
この記事を監修した医師
小児科専門医 / 院長 濵野 翔
ベスタこどもとアレルギーのクリニック
当院の記事は、「こどもとご家族に寄り添い、より良い医療を考える」という理念のもと、 小児科・アレルギーの専門医が監修しています。日々の子育てで不安に感じることがあれば、 いつでもご相談ください。
経歴
- 2009年 杏林大学医学部付属病院 初期研修
- 2011~2017年 杏林大学医学部付属病院 小児科
- 2018年 福岡市立こども病院 アレルギー・呼吸器科、2019~2023年 杏林大学医学部付属病院 小児科
専門・所属学会
- 日本小児科学会認定 指導医・専門医
- 日本アレルギー学会認定 専門医
- 日本小児アレルギー学会 ほか関連学会所属
